2015年7月15日水曜日

喉を開ける・・・声の丸さ


正しい声は、丸くて、柔らかくて、輝きがあります。

 
<丸さ rotondita'
<柔らかさ morbidezza
<輝き brillantezza
が、そのうちの一つだけが目立つ、というようなことがなく、3つとも同じ割合で感じられるものです。

 
声の丸さは、ノドの空間の広さから生まれます。

声を響かす空間は、ノドと口・・・
頭の響き、鼻腔、目の空洞などを使うと、誤解されていることが多いので・・・)

 
歌う声は、原則として、話す声と同じです。
普通は話す時の方が、言葉のスピードが速くなります。ごくごくゆっくり話せば、そのまま歌う声になります)
違いは、口の奥からノドにかけての空間が、歌う時に広くなることです。
頭部を前と後ろに分けて考えた時、前部 唇の状態は、話す時も歌う時も(中・低音域において )同じです。

 
歌う時は、ノドを開ける・・・誰でも知っていることですね。
では、どうやって?  

ノドは、息を吸う時に、すべての方向に柔らかく開けます。

(歌い出したら、もう意識しない・・・開けた状態を保とうとして力が入ると、不自然な声になります)

球状に開ける意識です。

上だけ、下だけ、上下方向だけ、左右だけ、前後だけ・・・という開け方をするとバランスを崩して、舌やアゴに余計な力が入ってしまう可能性があります。

軟口蓋を上げるのも、ノドが固くなるので、自然な声の妨げになります。

柔らかく開けることが大切で、無理な開け方をして、固くキープしてはいけません。
いつも柔軟な状態を保つ必要があります。
どこか硬く力の入った部分があると、振動が止まってしまいます。
 

こうしてノドが適切に開いている時、丸みのある声が生まれます。

 

ベルカントのお手本、ティト・スキーパを聴きましょう


イタリアオペラを勉強する人は、ほとんどみんな 当然のように、自分はベルカント発声をしていると思っているのではないでしょうか?

実際には、イタリアの歌手たちがベルカント唱法で歌っていたのは 1930年代あたりまでで、その後 衰退、そして絶滅・・・

 

ベルカントは、単純で簡単、無理なく自然に歌う歌い方です。

特別な事は、何もしない・・・

 

興味のあるかたは、とりあえずティト・スキーパ Tito Schipa )を Youtube ででも見てみてください。
ベルカントの見本・お手本です。
息の吸い方、口の開け方、母音のつなげ方、などに注目してみてください。

現在、誰もこういう歌い方をする歌手がいないことを納得いただけると思います。

ベルカント発声法 とは?



ベルカント唱法とは PARLARE SUL FIATO 息の上で 言葉を話す ように歌う、シンプルで とっても自然なイタリアの伝統的な発声法です。

普段私たちは、肋骨を横に開いて息を吸い、閉じながら息を吐く < 胸式呼吸 > と、横隔膜の上下で息を吸ったり吐いたりする <腹式呼吸 > の二種類の方法で呼吸しています。肋骨も横隔膜も、呼吸と一緒に常に動いていて、止まることはありません。
この自然な息の上に、普通におしゃべりするように言葉をのせて歌います。
(ベルカント発声は、胸式呼吸と腹式呼吸の両方を使います) 

ベルカント発声法は、イタリアのオペラの発祥と共に生まれました。
すなわち 16世紀にオペラが産声を上げた時から、歌手たちはずっと、自然で無理がなく、バランスのとれた ベルカント発声法で歌ってきました。
余分な筋肉の力を使わず、声の響きを集めたり、どこかに当てたり、口の形を特別に作ったり・・・などの操作をすることなく、非常にリラックスした状態で歌います。
音質は 甘く、柔らかく、ニュアンスに富み、繊細で、滑らかなレガートになります。
人を驚かすような大きな響きと高い声、超絶技巧・・・という印象のイタリアオペラが、力に頼らないベルカント発声法によって 何世紀もの間 受け継がれてきたというのも大変興味深いことです。 

しかし 残念なことに、この発声法は1900年代の半ばに失われました。 

1900年代の初めごろ、カルーゾやスキーパ、ジーリなどのベルカント歌手が活躍したあと、ドイツなどの北ヨーロッパの発声法がそれに替わることになります。
歌っていくと肺の中の空気が減り、横隔膜や肋骨はもとの位置に戻ろうとします。
これを、お腹の周りや背中の筋肉の力で、息が一杯入った状態に止めておいて歌う・・・そのために、お腹や背中に力を入れて歌うように指導される現在流行りの発声法で、はっきりした音色の、硬質な強い声になります。
現在イタリアにおいても、ほぼ100パーセントの歌手が、この新しいテクニックで歌っていますが、多くの歌手が 自分はベルカント発声をしていると思い込み、そう次の世代に伝えています。ベルカントが優れた唯一の発声法であることは明白なのに、どういう発声法なのか分からなくなってしまったのが現状です。
(ドイツリートの最高峰、ディスカウはベルカントです。ワーグナーは、彼のオペラをベルカント唱法で歌われることを望んだそうです。プッチーニや、マスカーニなどのヴェリズモ作曲家の生きた時代は、ベルカント歌手の全盛期でした。)
理想とされる声に似せて、人工的な方法で声を作るのではなく、生まれ持った自然な声を磨いていくことは 豊かな表現力につながります。
本物のベルカント発声法と、それをどう歌につなげていくか、一緒に学んでいきませんか?